函館地方裁判所 昭和55年(ワ)153号
原告
広瀬義彦
右訴訟代理人弁護士
前田健三
被告
函館交通株式会社
右代表者代表取締役
畑中八美
右訴訟代理人弁護士
嶋田敬
同
菅原憲夫
同
嶋田敬昌
主文
一 被告が原告に対し、昭和五四年二月二〇日になした懲戒処分及び同年三月一日になした解雇は、いずれも無効であることを確認する。
二 被告は原告に対し、昭和五四年四月一日以降毎月末日限り各金一八万三二九〇円、同年七月以降毎年七月末日限り各金一六万七〇〇〇円、同年九月以降毎年九月末日限り各金七万円及び同年一二月以降毎年一二月末日限り各金二六万〇一七九円の各金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
被告(被告会社ともいう。)は函館市で自動車による旅客運送(ハイヤー、タクシー)等を業とする会社であり、原告は被告にタクシー乗務員(運転手)として勤務していた者である。
2 原告の組合活動等
(一) 被告に雇用されているタクシー乗務員には、本採用従業員たる者(以下単に本採用ともいう。)と臨時採用従業員たる者(以下単に臨時採用ともいう。)の二種があり、このうち本採用のみで函館交通ハイヤー労働組合(以下単に組合という。)が組織されている。
(二) 原告は、本採用として組合に所属していたが、昭和五四年一月二五日に開催された組合の定期大会において、他の四名の組合員とともに執行委員に選出され、その後、執行委員の互選により副委員長に選任された。
(三) 原告は、一般組合員の信任を得て初めて執行委員に選出されたことから、職場の同僚のために何をしたらよいか真剣に考え抜いた末、まず同僚の卒直な意見や要望を聴くことから始めようと思い立った。
(四) そこで、原告は、同年二月一一日から同僚にアンケート用紙を渡してその意見や要望を聴くという活動(以下本件アンケート調査活動ともいう。)を始めた。
(五) 右のアンケート用紙は、特別の様式のものを用いたものではなく、単なる白紙のメモ用紙であり、また、アンケートという書面による方法をとったのは、組合大会などで要求はあっても十分発言できない人がいること及び交替制という勤務の性質上、すべての同僚と直接面談する機会が少ないことによるものである。
(六) 原告が自ら直接前記アンケート用紙を配付したのは、同月一一日午後一時三〇分ころ(職務時間外)被告会社社屋内の乗務員控室(以下単に控室ともいう。)において一名の者に対して一回前記アンケート用紙を渡して要求があれば自由に書いてくれるようにと依頼しただけであって、その時間も五、六分程度であり、その他には、同月一五日午前二時以降(職務時間外)に、同僚の一人に配付しようとして断られたことがあるだけである。
(七) なお、同月一一日から一五日までの間、訴外村田敏夫(以下単に村田という。)、同伊藤光男(以下単に伊藤という。)らも原告の発意に同調してアンケート用紙の配付に協力している。
(八) しかるところ、同月一六日に至り、原告は乗車勤務中のところを無線で会社に呼び戻され、被告会社代表取締役社長畑中八美(以下単に畑中社長という。)と同社係長訴外鶴谷重之(以下単に鶴谷係長という。)の二人から、事情聴取として、何故にアンケート用紙を配ったか、職場活動として行き過ぎではないか等と二時間近くにわたって詰問を受けた。また同じ日に村田が翌一七日には伊藤が、それぞれ呼び出され、原告と同様の詰問を受けた。
3 原告に対する懲戒処分及び解雇
(一) 被告は原告に対し、昭和五四年二月二〇日、組合委員長を通じて、原告が同月一一日になした前記アンケート配付行為に非違があるからとの理由で、原告の身分を本採用から臨時採用に変更する旨通告をしてきた。
(二) 原告は、右通告にかかる懲戒処分(以下本件懲戒処分という。)を受けるいわれはないと確信していたので、翌二一日以降も平常通り出勤して乗車勤務につこうとしたところ、被告会社係長訴外佐藤貞吉(以下単に佐藤係長という。)その他の役職者から、会社と臨時雇用契約を締結しなければ乗車勤務につかせないと言われ、その度に就労を拒否された。
(三) 本件懲戒処分後右(二)記載のとおり推移するうち、同年三月一日、被告は原告に対し、同日付をもって原告を解雇する旨の意思表示をするに至った(右意思表示にかかる解雇を以下本件解雇という。)。
4 本件懲戒処分及び本件懲戒(ママ)解雇の無効
(一) 本件懲戒処分は、原告の身分を本採用から臨時採用に変更するというものであるが、臨時採用の地位は次に述べるとおり極めて不安定なものであり、これは単なる「待遇格下げ」というよりは解雇に近い重大な不利益処分である。すなわち、臨時採用の地位は、本採用のそれに比し次のような差異がある。
(1) 雇用期間は二か月であり、これが更新される保障はない。
(2) 賃金は、完全歩合制で、売上高が三六万円に満たないときはその三七パーセント、三六万円以上のときはその五〇パーセントである(本採用には基本給がある。)。
(3) 社会保険等がない。
(4) 賞与、手当がない。
(5) 労働組合に加入できない。
(6) 事故の際の相手方に対する損害賠償につき、最低二〇パーセントは自己負担させられる(本採用では、全額会社が負担する。)。
(7) 一定区域外に居住する者は、自宅で夕食をとることができない(本採用の者にはこのような制限はない。)。
(二) ところで、およそ労働組合にとって、労働者の意見がその活動に反映されるべきことは当然であるが、原告のなした本件アンケート調査活動は、前記のとおり、新たに執行委員に選ばれた原告が組合員の信頼に応えるためその意見等を集約しようとしてなしたものであり、その目的において正当であるのみならず、その態様においても何ら被告の業務に支障を与えるものではなかった。
従って、これに対し、被告が原告になした本件懲戒処分及び本件解雇は、明らかに懲戒権及び解雇権を濫用したものであり、無効である。
5 賃金請求権
(一) 原告は、本件解雇以前において、被告から次のとおり給与等の支払を受けていた。
(1) 毎月平均一八万三二九〇円の給与
(2) 毎年七月夏期賞与(昭和五三年七月の支給額は一六万七〇〇〇円)
(3) 毎年九月燃料手当(昭和五三年九月の支給額は七万円)
(4) 毎年一二月冬期賞与(昭和五三年一二月の支給額は二六万〇一七九円)
(二) 前記4記載のとおり本件懲戒処分及び本件解雇は無効であり、原告は被告の本採用従業員たる地位を有するところ、被告は一方的に原告の就労を拒否しているのであるから原告は反対債権たる賃金請求権を失わない。
従って、被告は原告に対し、本件解雇の日以降も右(一)記載各金額を下回らない金額の給与、手当及び賞与を支払うべき義務がある。
6 よって原告は被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2につき
(一) 同2(一)の事実は認める。
(二) 同2(二)の事実は認める。
(三) 同2(三)の事実は知らない。
(四) 同2(四)のうち、原告が昭和五四年二月一一日から同僚にアンケート用紙を渡した事実は認め、その余の事実は知らない。
(五) 同2(五)のうち、アンケート用紙の様式が白紙のメモ用紙であることは認めるが、その余の事実は知らない。
(六) 同2(六)の事実は否認する。原告のアンケート調査活動は、被告の主張1(一)(1)記載のとおりである。
(七) 同2(七)の事実は認める。
(八) 同2(八)の事実は否認する。もっとも被告の主張1(二)記載のとおり、畑中社長と鶴谷係長とが、原告らのなしたアンケート調査活動につき、昭和五四年二月一六日には原告及び村田から、翌一七日には伊藤からそれぞれ各別に事情聴取をしたことはある。原告から事情聴取した時間は約五〇分である。
3 同3につき
(一) 同3(一)の事実は認める。
(二) 同3(二)のうち、原告が本件懲戒処分を受けるいわれはないと確信していたことは知らない。その余の事実は否認する。
(三) 同3(三)の事実は認める。
4 同4につき
(一) 同4(一)冒頭の主張は争う。
同4(一)(1)のうち、雇用期間が二か月であることは認めるがその余の事実は否認する。
同4(一)(2)の事実は認める。但し、一般的に臨時採用の収入が本採用と比較して少ないということはない。
同4(一)(3)の事実は認める。
同4(一)(4)の事実は認める。但し、賞与に代わる寸志の名目で雇用通算期間に応じ五〇〇〇円ないし五万円程度が支給されている。
同4(一)(5)の事実は認める。
同4(一)(6)の事実は否認する。事故の際の自己負担分は、本採用、臨時採用を問わず、個々的に検討して決定されている。
同4(一)(7)の事実は否認する。本採用、臨時採用とも同一の基準に拠っている。
(二) 同4(二)の主張は争う。
5 同5につき
(一) 同5(一)の事実は認める。
(二) 同5(二)の事実及び主張は、否認し、争う。
三 被告の主張
1 本件懲戒処分及び本件解雇とそれに至る経緯
(一) 原告らのアンケート調査活動等
(1) 原告は、昭和五四年二月一一日午後一時ころから同二時ころまでの休憩時間中に控室において被告会社の従業員数名に対し、同月一四日の始業朝礼後である午前八時一〇分ころから被告会社の事業所内でその従業員訴外佐藤郁雄外四名位に対し、翌一五日午前一時四〇分ころから同二時までの間に被告会社の事業所内で前同訴外早坂慶治外一名に対し、それぞれ、アンケートの趣旨、回収方法を説明してアンケート用紙を配付し、または配付しようとした。
また、伊藤は、同月一四日前同訴外佐藤貞吉外五、六名に対し、また村田は、同月一一日から一四日までの間に前同訴外東竹祐外一〇名に対し、同月一六日午前八時一〇分ころから前同訴外石山孝二外三名に対し、それぞれ被告会社の事業所内で、アンケートの趣旨及び回収方法等を説明してアンケート用紙を配付した。
(2) 畑中社長は同月一五日に原告らの右アンケート調査活動を知ったが、これについては異例にも組合から何らの通告もなかったので、組合執行委員長等に照会したところ、右活動は組合が全く関知せず、その承認もしていないものであることが判明した。
(二) 原告らに対する事情聴取等
畑中社長は、原告らの右活動が、組合の承認もなく、また会社への通告もないままに勤務時間内の相当の時間を費して行われたものであることから、被告会社の就業規則(以下単に就業規則という。)所定の懲戒事由に該当するのではないかとの疑いをもち、同月一六日午前一一時ころから同一一時五〇分ころまでの間村田から、同日午後〇時ころから同〇時五〇分ころまでの間原告から、翌一七日午前八時二〇分ころから同九時一五分ころまでの間伊藤から、それぞれ事情聴取をして右活動について事実を確認したうえ、各人に対し、右活動をなしたことに非違があったことを認める旨の理由書を作成することを命じたところ、村田及び伊藤はこれに応じたが、原告は、右活動をなした事実を認めたものの、右理由書の作成には応じず、却って自己の行為には全く非違はない旨強固に主張して反抗的な態度をとり、右活動に非違があるとする畑中社長らの理由説明も聞こうとはせず、話し合いにも応じようとはしなかった。
(三) 本件懲戒処分
(1) 畑中社長は、原告らのなしたアンケート調査活動及び原告の前記理由書作成命令拒否が、就業規則五七条六号所定の「故なく会社の業務上の指示命令に従わず、又は事業上の秩序を乱した時」との懲戒事由に該当すると考えたので、同月一七日、就業規則五五条により、会社側から佐藤係長、鶴谷係長、中村正仁係長(以下単に中村係長という。)の三名、組合側から水野清委員長(以下単に水野委員長という。)田村慧書記長(以下単に田村書記長という。)、吉田健蔵執行委員(以下単に吉田執行委員という。)の三名で構成される懲戒委員会を設けて審議を求めた。
(2) 同委員会は、原告らの右活動等が、就業規則五七条六号所定の前記懲戒事由に該当することを確認した。
(3) そして同委員会は、原告については、就業規則五四条四号により本採用から臨時採用にその身分を変更する待遇格下である本件懲戒処分を、村田及び伊藤についてはいずれも同条一号により、顛末書を提出させ将来を戒める譴責の懲戒処分をそれぞれ決定した。
(4) 右懲戒委員会において、組合側委員は原告を説得して謝罪させるよう努力する旨申出たので、被告は右説得の結果を待つこととして、処分の最終的な確定及びその通告を差し控えていたが、原告が、非違を認め謝罪するようにとの組合の説得を拒否したため、被告は同月一九日、原告、村田及び伊藤に対し、前記各懲戒処分を通告した。
(四) 本件解雇
(1) 前記各懲戒処分の通告に対し、村田及び伊藤はこれに応じたが、原告はこれを不服として同月二一日以降乗車勤務を拒否し続けた。
(2) 被告は、原告に対し、臨時採用として乗車勤務するよう説得したが、原告がこれを拒否し続け、結局、公休日である同月二七日を除き同月二一日から同月二八日まで欠勤したため、右連続欠勤を理由に、同年三月一日原告に対し、本件解雇の意思表示をした。
(3) なお、組合も独自に原告らの行為につき検討し、同年二月二一日の臨時組合大会において、原告及び村田は執行委員でありながら組合の承認を得ず、かつ、非組合員である管理職までも対象とした活動を行ったもので、右両名の行為は組合と会社との間の慣行を無視した独断的な行為であるとして、両名を執行委員から解任するとともに、被告会社に謝罪することを決定した。組合は、その後も原告に謝罪するよう説得を重ねたが、原告がこれをも拒否したため組合としてはこの問題から手を引くことを決定し、原告は一切関係がない旨、被告の事業所内の組合掲示板に掲示をするに至った。
2 本件懲戒処分及び本件解雇の有効
(一) 本件懲戒処分の有効
(1) 原告の前記アンケート調査活動等が就業規則五七条六号所定の前記懲戒事由に該当すること
(a) 従業員は、勤務時間中は使用者の指揮命令に従い労務に服する義務を負うものであるから、従業員がその勤務時間中に勤務外活動を行うことは使用者の承認のない限り許されない。また、たとえ休憩時間中であっても、事業所は使用者が経営目的を達成するため管理するものであるから、事業所内で従業員が勤務外活動を行うには使用者の承認を必要とすべきである。更に、組合と被告との間には、組合が勤務時間中に組合活動を行う場合には、組合が事前に被告にその旨通告してその許可を受けるべきものとする慣行が存した。
原告らのなした本件アンケート調査活動は、右労使慣行を無視するものであり、自らの労務提供義務の不履行であるばかりでなく、配付の対象である他の従業員の労務提供をも阻害し、被告の業務に支障を生じさせるものであって、前記就業規則五七条六号前段及び後段の各懲戒事由に該当する。
(b) 前記(a)記載のとおり、原告のなした前記アンケート調査活動が前記懲戒事由に該当するものである以上、被告が原告に対し前記のとおり理由書の作成を命じたことは業務命令として正当なものである。
従って、原告が前記のとおり強固な態度でこれに応じず、反抗的態度にまで及んだことは、前記アンケート調査活動と同様に、前記各懲戒事由に該当する。
(2) 本件懲戒処分が処分内容としても相当であること
臨時採用の雇用期間は二か月であるが、右期間の定めは形式的なものであり、臨時採用のすべてにつきほとんど当然に更新がなされて雇用関係が継続されており、殊に原告に対する本件懲戒処分の場合、本採用から臨時採用への身分の変更は一時的なものであり、相当期間経過後は本採用への復帰が予定されていたものであって、実際過去において本採用から臨時採用に変更された例をみても、雇用関係は継続され、相当期間経過後は本採用へ復帰している。また、臨時採用の労働条件も本採用のそれと比して著しく劣るというものではない。
以上の各事実を斟酌すれば、本件懲戒処分は前記各懲戒事由に基づく懲戒処分として相当なものである。
(二) 本件解雇の有効
前記のように原告は、本件懲戒処分を不服として受け入れず、同年二月二一日乗車勤務を拒否して欠勤し、その後も、公休日である同月二七日を除き、同月二八日まで連続欠勤したものであって、これは就業規則五七条八号の「正当な理由がなく欠勤が継続七日以上に及んだとき」との懲戒事由に該当する。
被告は、原告に対しては懲戒解雇の方法はとらず予告解雇の方法をとることとして、前記のとおり原告に対し本件解雇の意思表示をしたものであるが、これには右のとおり客観的合理的な理由があるから、これを解雇権の濫用ということはできない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1について
(一) 同1(一)(1)のうち、原告のアンケート用紙配付に関する事実は、請求原因2(六)記載の限度でこれを認めその余の部分は否認し、伊藤の配付に関する事実は認めるが村田の配付に関する事実は知らない。
同1(一)(2)のうち、畑中社長が原告らのアンケート調査活動を知った時期については知らない。その余の事実は認める。但し、組合の委員長はアンケート調査活動が行なわれていることは知っていた。
(二) 同1(二)のうち、被告主張のころ各事情聴取があったこと、村田及び伊藤が理由書の作成に応じたこと、原告がアンケート調査活動をした事実を認めたこと及び原告が自己の行為を正当である旨主張したことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。
(三) 同1(三)(1)(2)の事実は、いずれも知らない。
同1(三)(3)の事実は認める。
同1(三)(4)のうち、懲戒委員会において、組合側委員が原告を説得して謝罪させるよう努力する旨申出たことは否認し、被告が処分の最終的な確定及びその通告をさしひかえていたことは知らない。その余の事実は認める。
(四) 同1(四)(1)のうち、原告に関する部分は否認し、その余の部分は認める。請求原因3(二)記載のとおり、原告が被告側から乗車勤務を拒否されたものである。
同1(四)(2)のうち、被告主張の日に本件解雇の意思表示のあった事実は認めるが、その理由は知らない。
同1(四)(3)のうち、組合が被告主張の掲示をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 同2(一)、(二)の各主張はいずれも争う。
第三証拠(略)
理由
一 当事者
被告が函館市で自動車による旅客運送(ハイヤー、タクシー)等を業とする会社であり、原告が被告のタクシー乗務員(運転手)として勤務していた者であることは当事者間に争いがない。
二 本件懲戒処分及び本件解雇とそれに至る経緯
成立に争いのない(証拠略)の全趣旨を総合すれば、本件懲戒処分及び本件解雇とそれに至る経緯として次の事実が認められる。
1 (原告らの本件アンケート調査活動等)
(一) 被告に雇用されているタクシー乗務員には、本採用及び臨時採用の二種があり、うち、本採用のみで組合が組織されている(この事実は当事者間に争いがない。)。
(二) 原告は、本採用として組合に所属していたが、昭和五四年一月二五日に開催された組合定期大会において、他の四名とともに組合の執行委員に選出され、その後執行委員の互選により組合の副委員長に選任された(この事実は当事者間に争いがない。)。
(三) 原告は、一般組合員の信任を得て初めて執行部の副委員長に選任されたことからその信任に応えるためには今後組合活動として何をなすべきかを考えていたが、同年二月九日ころ、同じ組合員である訴外髙野和夫、同梅崎幹和、村田とその点につき話し合ったところ、まず職場の仲間の意見や要望を聴こうということになり、更に右の計画を伊藤に話したところ、その賛同も得られた。
なお、原告としては、単に組合員である本採用のみならず非組合員である臨時採用も、同じ職場の仲間として右の意見や要望を聴く対象と考えていたが、管理職はその対象とは考えていなかった。
(四) そして、右の意見や要望を聴く方法としては、アンケート用紙を配付して各人の意見を記入してもらい、これを後に回収するという方法をとることとした。
(五) 右のアンケート用紙としては特別のものが企画された訳ではなかったため、後記のアンケート用紙配付者がそれぞれ用意した白紙のメモ用紙(大きさも区々であるが、大体縦一二ないし一五センチメートル、横八ないし一〇センチメートル程度のもの)が用いられた(右のうち、アンケート用紙が白紙のメモ用紙であることは当事者間に争いがない。)。
前記意見や要望を聴く方法として、このようなアンケートという書面による方法を採ることとしたのは、ひとつには、被告会社においては、三種類の勤務(午前八時から翌日の午前二時までの勤務(通常勤務)、午前一〇時から翌日の午前八時までの勤務(泊り勤務)及び正午から午後一二時までの勤務(日勤))があり、かつ、これが交替制で実施されているため、個々の従業員に各別に面接して意見や要望を聴くということが容易ではなかったためであり、他には、組合大会等において自らの意見や要望を十分に発言することのできない人がいるためである。
(六) 原告は、自らもアンケート用紙の配付に当ったが、原告が実際にアンケート用紙を配付したのは、同月一一日午後一時三〇分ころの原告の後記昼休み時間中に、控室において、同じく自己の後記昼休み時間で食事をしていた臨時採用の訴外ナンバ某に対して配付した一回のみである。なお、当時控室では、四、五名の被告会社従業員がいずれも昼食をとっており、原告はこれらの者にもアンケート用紙を配付しようとしたが、既に他の者からアンケート用紙の配付を受けているなどの理由で結局、右のとおり訴外ナンバ某にのみアンケート用紙を配付したものであり、この際、原告は、「この紙に、自分の思っていることや、会社に対する要求を書いて下さい。」と依頼したが、その所要時間は二、三分程度のものであった。
なお、被告においては、その従業員に対し、午前一一時から午後二時までの間に、従業員の選択(一応被告側の了承を得ることとはなっている。)による一時間の昼休み(昼食時間)を与えており、この間に従業員らは控室等で、昼食をとったり休憩をしており、また、控室は右のように食事をするほか、被告の業務上の指示に従がい従業員が待機するための場所としても利用されていたが、日中は、右のような待機するための場所として用いられることは殆どなかった。(なお、原告の前記アンケート用紙配付時には、控室に待機中の者がいたと認めるに足る証拠は存しない。)
更に、原告は、同月一五日午前二時すぎころ、原告と同様、所定の勤務時間(午前二時まで)を一応終了し、車内で残務の運転日報をつけていた訴外田口栄治郎に対し、前記と同趣旨のことを述べてアンケート用紙を配付しようとしたが、同訴外人からすでに伊藤からアンケート用紙の配付を受けているとしてこれを断られたため結局アンケート用紙を配付することはできなかった(<証拠略>中、右認定に反する部分は信用できない。)。
(七) なお、伊藤及び村田らも原告の発意に同調してアンケート用紙の配付に協力し、伊藤は、自己の昼休み時間中の同月一四日午前一一時二五分ころ、控室において、二、三分に亘り、昼休み時間中の被告会社従業員五、六名(この中には管理職である佐藤係長も含まれていた。)に、前記と同趣旨の説明をしてアンケート用紙を配付し、村田は、その具体的態様は不明であるが、一部勤務時間内に亘って、前同訴外早坂某らに、前同様の方法でアンケート用紙を配付し、更に髙野も、その具体的態様は必ずしも明らかではないが、訴外下田某、同東某らに前同様の方法でそれぞれアンケート用紙を配付した(伊藤及び村田らも原告の発意に同調してアンケート用紙の配付に協力したこと、伊藤が前記日時場所において前記のとおりアンケート用紙の配付をしたことは当事者間に争いがない。)。
2 (その後の経緯と本件懲戒処分)
(一) 畑中社長は、同月一五日、従業員の報告により原告らが前記のようなアンケート調査活動(本件アンケート調査活動)をなしていることを知ったが、このことについては組合から何らの通告もなかったところから、組合の水野委員長に照会したところ、原告らは右活動をなすにつき組合の承認を得ていないことが判明したので、原告らのなした右活動は就業規則所定の懲戒事由に該当するのではないかとの疑いをもつに至った。
なお、組合の執行委員五名のうち、原告、村田及び訴外吉田健蔵の三名は、事前に右活動をすることを知っていたが、水野委員長ら二名は事前にはこれを知らなかったものである。
(二) そこで、畑中社長は原告らから事情を聴取することとした。
原告については、同月一六日乗車勤務中のところを無線で会社に呼び戻したうえ、同日午後〇時三〇分ころから同二時すぎころまでの間、被告会社社屋二階の応接室において、畑中社長は鶴谷係長を同席させたうえで事情聴取を行った(同日事情聴取が行われた事実は当事者間に争いがない。)。
ところが、この事情聴取において畑中社長らは、原告らのなした本件アンケート調査活動は、会社の秩序を乱すものであり、それがなされたのが勤務時間中であると休憩時間中であるとを問わず許されないものと考えていたため、原告に対し、主として畑中社長から、何故にアンケート用紙を配ったのか、そのことについて組合は知っているのか、臨時採用にまで配ったのは行きすぎではないか、何故上司に相談しなかったのか等と詰問した。
これに対し、原告は右活動は正当なものと信じていたので、アンケート用紙を配付したことは認めたものの、臨時採用に配ったことはいきすぎとは思わない、上司に相談する訳にはいかない、自分の行為は悪いとは思わない等と答えた。
このため、謝罪を求める畑中社長と正当性を主張する原告との間で押し問答の状態となった(なお、<証拠略>中には、原告が右事情聴取の際に、畑中社長に対し、暴言を吐き、極めて威圧的な態度をとったかのごとくいう部分があるが、右部分は具体性を欠いており、原告本人尋問の結果と対比すると直ちに措信できない。以上認定の事実によれば、被告は、原告が右事情聴取の際に畑中社長に対して反抗的な態度をとった旨主張しているが、右事情聴取の場に臨んでの原告と畑中社長との本件アンケート調査活動の事実関係及びその評価についての認識はかなり異っており、原告が畑中社長の意見に従わないという意味では、原告の態度は畑中社長の主観からすれば反抗的と評する余地はあるものの、これをもってただちに被告の態度が会社従業員としての節度を著しく越えていたと認めることはできない。)
その後、畑中社長は、原告に対し、自己の口述するところに従って、原告らが本件アンケート調査活動をなしたことに非違があったことを認め会社に謝罪する旨の始末書を作成するように命じたが原告がこれを拒否したため、更に、原告に対し、自分の思っていることを書くようにと自発的な内容の始末書の作成を再三命じたところ、原告はようやく、アンケート用紙を渡したことは、「いきすぎだったと思う」旨記載した文書を畑中社長に作成したので、畑中社長は原告に対する事情聴取を一応終了した。
また、村田に対しては同日午前一一時ころから約五〇分間、伊藤に対しては翌一七日午前八時二〇分ころから約五五分間、それぞれ畑中社長らから事情聴取がなされたが、村田、伊藤は、畑中社長の要求に応じ、本件アンケート調査活動をなしたことに非違があったことを認める旨理由書を作成して畑中社長に提出している(村田及び伊藤に対し畑中社長らが事情聴取をしたこと及び村田、伊藤が理由書の作成提出に応じたことは当事者間に争いがない。)。
なお、畑中社長は、前記(一)記載の経過から原告らのなした本件アンケート調査活動は被告に無断でしかも勤務時間内になされたもので会社の秩序を乱す許されないものとの考えをほぼ固めていたため、前記各事情聴取の際には前記のように主として原告らの責任の追求に終始することとなり、その前はもとより、その後も、原告に対する本件懲戒処分及び本件解雇に至るまで、被告として、本件アンケート調査活動のなされた日時、場所、配付数等の具体的事実関係の調査は殆どなさなかった(被告が原告の具体的な配付行為につき調査、確認の作業をしたのは、原、被告間の別件仮処分事件(当庁昭和五四年(ヨ)第五五号)の判決が言渡された後で、本件アンケート調査活動のなされた日からは一年一〇か月程経過した昭和五五年一二月末である。)。
(三) 畑中社長は、前記各事情聴取の結果、原告らの本件アンケート調査活動及び原告の前記事情聴取における前記理由書作成命令拒否等の行為が就業規則五七条六号の「故なく会社の業務上の指示命令に従わず、又は事業上の秩序を乱した時」との懲戒事由に該当すると判断したので、昭和五四年二月一七日就業規則五五条により、会社側から鶴谷係長、佐藤係長、中村係長の三名、組合側から水野委員長、田村書記長、吉田執行委員の三名によって構成される懲戒委員会を設置して、この問題について審議を求めた。
右委員会においては、まず畑中社長、鶴谷係長から、原告らが、被告会社の許可なく、勤務時間中被告会社内において、臨時採用や管理職の者に対してまでアンケート用紙の配付をなした旨、また、前記各事情聴取において、村田及び伊藤は本件アンケート調査活動をなしたことに非違があったことを認める旨の理由書の作成に応じたが、原告はこれに応じず、強固に自己の行為の正当性を主張して反抗的な態度をとった旨などの一応の経過説明がなされたものの、被告会社としては前記のとおり、原告らのなした本件アンケート調査活動の具体的な事実関係については殆ど調査していなかったため、会社側からは右活動の具体的な事実関係についての説明はなされなかったが、組合側委員から会社側説明の右事実関係につき異論は唱えられず、右事実関係を前提として原告らの懲戒処分が審議された。そして、右委員会における審議の結果、畑中社長の前記判断が是認され、原告らの本件アンケート調査活動は就業規則五七条六号所定の前記懲戒事由に該当し、従って、原告の前記事情聴取における前記理由書作成命令拒否等の行為も、右活動同様、右懲戒事由に該当するものとされ、原告については、畑中社長の発言に基づき、本件アンケート調査活動そのものよりも、前記事情聴取における前記理由書作成命令拒否等の行為が重視されたため、村田及び伊藤と異なり、就業規則五四条四号により本件懲戒処分が、村田及び伊藤については、いずれも同条一号により譴責の懲戒処分がそれぞれ決定されることとなった(原告及び村田、伊藤に対し、懲戒委員会で右各処分が決定されたことは当事者間に争いがない。)。
もっとも、右委員会の席上、組合側委員から、原告を説得して謝罪させるので、処分は寛大にしてもらいたい旨の発言があったので、被告としては、暫くの間組合側の右説得の結果を待つこととして、原告らに対する各処分の通告を差し控えることにした。
(四) しかし、その後、組合側が原告に対し、非違を認め謝罪するようにとの説得を試みたのに対し、原告がこれを拒否し、右説得も効を奏さなかったので、同月一九日、被告は原告らに対し、前記各処分を通告した(右のうち、組合側が右説得を試み、原告がこれを拒否したこと及び同月一九日原告らに対し各処分が通告されたことは当事者間に争いがない。但し、原告に対する本件懲戒処分の通告は、組合を通じてなされたため、原告がこれを知ったのは同月二〇日であり、この点についても、当事者間に争いがない。)。
(五) ところで、被告会社においてはその行うべき懲戒処分に関し、就業規則五四条本文に「懲戒は左に掲げる譴責、減給、出勤停止、待遇格下げ、懲戒解雇とする。」、同条四号に「待遇格下げは始末書を提出させその待遇格下げして将来を戒める。」との、また五七条本文に「従業員が左の各号の一に該当すると懲戒委員会が認めたときは懲戒解雇に処する。情状酌量の余地があるときは待遇格下げ若しくは出勤停止に止めることがある。」、同条六号に「故なく会社の業務上の指示命令に従わず又は事業上の秩序を乱した時」との各規定がおかれている。
そして、従来、被告会社においては、右各規定にいう「待遇格下げ」処分中には従業員の身分を本採用から臨時採用に変更することをも含むとの解釈がなされており、最近では、窃盗罪で警察に逮捕され新聞で報道された者、乗車勤務中居眠り運転をして交通事故を起こし乗客に負傷させた者等、重大な非行があった者に対し右「待遇格下げ」処分として右身分変更の処分が実施されてきた。
この本採用と臨時採用との地位の違いは、原告主張(請求原因4(一)(1)ないし(7))のとおりであり(もっとも、右のうち(1)の臨時採用の雇用期間が二か月であること、(2)ないし(5)の事実は争いがない。)、被告の従業員合計約九〇名余りのうち、本採用と臨時採用の人数は大体同じである。
そして臨時採用たる者の中には、自ら望んで臨時採用のままでいる者もいるが、その他の者は、被告会社が新規採用にかかる者を当分の間は臨時採用として雇用するという方法をとっている関係で臨時採用となっている者であり、これらの者は一定期間を経過した後本採用となることが予定されている。これに対し、「待遇格下げ」処分として本採用から臨時採用に身分を変更された場合には、右の場合と同様に再び本採用になれるというものではないが、その後の勤務成績等によって本採用に復帰できる道も残されており、前記窃盗罪で逮捕され新聞に報道された者の場合は、約一年後に本採用に復帰している。
3 (本件懲戒処分の通告後、本件解雇に至る経緯)
(一) 原告は、前記のとおり、同月二〇日本件懲戒処分の通告を受けたがこれに納得できなかったので、翌二一日午前八時ころ、平常どおり乗車勤務につこうとしたところ、佐藤係長から、本件懲戒処分により、臨時採用に待遇格下げとなったのだから、被告会社と臨時雇用契約を締結しなければ乗車勤務させないと言渡された。
そこで原告は直ちに畑中社長に面会を求め、同日午前九時ころから約三〇分位畑中社長と話合をしたが、この席において、原告は、臨時ということだがこれはどういうことか、就業規則のどこにその様な規定があるのか等と、本件懲戒処分の処分事由などを問い質したところ、同席していた鶴谷係長は、就業規則五七条六号に該当する旨答えた。また、この席上、畑中社長は原告に対し、謝罪を求め、かつ、臨時雇用契約を締結しなければ乗せない旨述べた。
(二) そして、同日午前一〇時三〇分ころから、本件懲戒処分についての対応策等を検討するために組合の臨時大会が開催され、右大会において、原告は会社に対して謝罪すべきこと及び組合執行部も会社に謝罪して本件懲戒処分を撤回してもらうべきことが決議され、また原告及び村田は右大会において組合の執行委員を辞任した。
(三) 同月二三日は再び原告の乗車勤務すべき日であり、同日午前八時ころ原告は被告会社に出勤し乗車勤務前の点呼を受けようとしたところ、中村係長から臨時雇用契約を締結していないのなら乗務はできないので点呼の席から離れるように言われたため、点呼を受けて乗車勤務につくことができず、その日は午前一〇時ころまで控室に待機した後、帰宅した。
(四) その後も原告は自らの乗車勤務の日には毎朝被告会社と道路を隔てた位置まで赴き、ここで待機していた。なお、原告が会社の中に入いらなかったのは、前記のとおり、二月二一日及び二三日に、いずれも臨時雇用契約を締結しないと乗務させないと被告会社側から申し渡されていたので、会社内に入っても断わられるのが明らかであると原告において判断したためである。
(五) 被告は、以上のように原告が謝罪をせず、かつ、臨時雇用契約を締結して乗車勤務につかないのは、就業規則五七条八号所定の「正当な理由なく七日以上欠勤したとき」との懲戒解雇事由に該当すると判断したので、これを理由に、同年三月一日原告に対し本件解雇の意思表示をした(同年三月一日被告から原告に対し、本件解雇の意思表示がなされたことは当事者間に争いがない。)。なお、被告としては、前記のとおり、原告の右行為は懲戒解雇事由に該当すると判断したが、あえて懲戒解雇まではしないものとして、本件解雇としたものである。
三 本件懲戒処分及び本件解雇の効力
1 本件解雇の効力
(一) 前記認定説示の事実関係によれば、原告らのなした本件アンケート調査活動は、組合の承認を得て組合の活動としてなされたものではなく、従って、直ちに組合活動としての保護を受けるものということはできないが、右は、初めて執行委員(副委員長)に選出された原告らが、一般組合員の信任に応えるためには何をしたらよいかを真剣に考えた結果として、まず職場の仲間の意見や要望を聴こうとしてなされたものであって、その目的において正当なものと評することができる。
また、原告自身が本件アンケート調査活動として実際になした行為は、前記二1(六)認定のとおりであり、右行為は、いずれもその所要時間や行為の態様等に鑑みれば、他の従業員、特に原告がアンケート用紙を配付しまたは配付をしようとした相手方従業員の休憩や残務の処理、ひいては被告の職場秩序に支障をきたすようなものではないことは明らかである。
更に、前記認定説示のとおり、本件アンケート調査活動は、原告、伊藤、村田らが相談のうえ行ったものであるから、原告は原告以外の者が右活動としてなした行為についても全く無関係とはいえないものであるところ、原告以外の者が右活動としてなした行為は前記二1(七)認定のとおりであり、その一部は勤務時間内に亘ってなされたものであるが、これも、その行為の所要時間(なお、右行為のために費された勤務時間は極めて僅少なものであること)や態様等に鑑みれば、これらの者自身の勤務に支障をきたしたり、また他の従業員特にアンケート用紙の配付を受けた従業員の勤務に支障をきたし、ひいては被告の職場秩序に支障をきたすとまでいえるものでないことが明らかである。
ところで、被告は、被告と組合との間には、組合が勤務時間中に組合活動を行う場合には組合が事前に被告にその旨通知をしてその許可を受けるべきものとする慣行が存したもので、原告らのなした本件アンケート調査活動は右労使慣行を無視するものである旨主張し、(証拠略)によれば従前、勤務時間内に、組合としての活動をするときには、組合から被告に対し事前にその旨の連絡をし、被告がこれを許可していたことのあることは認められるものの、本件全証拠によるも、被告会社において、従業員が勤務時間中に勤務外活動をするときには、本件アンケート調査活動の如きものまで含め、事前に会社にその旨の通知をしてその許可を受けるべきものとする労使慣行が存したことを認めるに足りないから、被告の右主張は理由がない。
そこで、以上検討したところに基づいて、原告らのなした本件アンケート調査活動が被告主張の前記懲戒事由に該当するか否かを判断するに、原告らのなした本件アンケート調査活動は、前示のとおり、その目的において正当なものであり、かつその所要時間や行為の態様等に照らして被告の職場の秩序等に支障をきたすとまでいえるようなものではないから、右活動が被告の事業所内で行なわれ、かつ、その一部が勤務時間中になされたものであるけれども、被告としてはこれを受忍すべき義務があったものというべきであり、従って、原告らが本件アンケート調査活動をしたことの一事をもって、被告会社の就業規則五七条六号の「故なく会社の業務上の指示命令に従わず又は事業上の秩序を乱した時」との懲戒事由に該当するものとは到底いえない。
(二) 従ってまた、畑中社長が右と異なり、原告らのなした本件アンケート調査活動が就業規則五七条六号所定の前記懲戒事由に該当するとの判断のもとに、前記事情聴取の際、原告に対し、右活動について詰問したうえ、前記理由書の作成を命じたことは不当というべきであり、原告が右活動の正当性を主張して右始末書の作成に応じなかったことは、原告の立場としては何ら非難に値するものではなく、これをもって、就業規則五七条六号所定の前記懲戒事由に該当するものということのできないこともまた明らかである。
(三) 更に、前記のとおり、畑中社長が前記事情聴取の際原告に対してなした前記詰問及び前記理由書の作成命令が不当なものであった以上、これに対し、原告が右事情聴取の際になした前記認定の言動も、これをもって就業規則五七条六号所定の前記懲戒事由に該当するということが到底できないことは明らかである。
(四) 以上のとおりであるから、原告のなした本件アンケート調査活動等が就業規則五七条六号所定の前記懲戒事由に該当することを理由としてなされた本件懲戒処分は、結局客観的合理的な理由を欠く不当なものであるから、懲戒権の濫用として、無効といわざるを得ない。
しかのみならず、仮りに原告のなした本件アンケート調査活動等に何らかの非違があったとしても、その非違の程度は軽度のものというべきところ、これを理由に前記のとおり重大な不利益を伴う本件懲戒処分をなしたことは過酷にすぎ極めて不当であるから、いずれにしても懲戒権の濫用として無効といわなければならない。
2 本件解雇の効力
前記二3(一)ないし(四)認定説示のとおり、原告は、本件懲戒処分の通告を受けた後の昭和五四年二月二一日及び二三日に、いずれも平常どおり乗車勤務につこうとしたが、被告から本件懲戒処分がなされたことを理由に臨時雇用契約を締結しなければ乗車勤務させないとしてこれを拒否され、原告としては本件懲戒処分に納得できず右臨時雇用契約の締結に応じなかったため、結局、原告は同月二八日まで、公休日である同月二七日を除いて乗車勤務につけなかったものであるが、前記1説示のとおり本件懲戒処分は無効であるから、原告が右乗車勤務につけなかったことは、被告の側の不当な就労拒否に基づくもので、原告の責に帰すべからざる事由によるものというべきであり、従って、これをもって就業規則五七条八号の「正当な理由なく欠勤が継続七日以上に及んだとき」との懲戒事由に該当するということは到底できない。してみれば、これが右懲戒解雇事由に該当することを理由としてなされた本件解雇は、何ら客観的合理的な理由のない不当なものであって、解雇権の濫用として無効という他はない。
四 原告の賃金請求権
以上によれば、原告は昭和五四年三月一日以降も被告の本採用従業員としての地位を有するものであり、前記認定説示の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は同年二月二一日以降も引続き就労の意思を有し、かつ、労務の提供につき必要な行為をしているのに対し、被告は前示のとおり無効な本件懲戒処分及び本件解雇を理由に不当に原告の労務の受領を拒否していることが認められる(右認定を覆えすに足る証拠はない。)から、原告は同年三月一日以降も被告に対し、本採用従業員としての賃金の支払を受ける権利を有するものと認められるところ、原告が本件解雇以前に賃金として請求原因5(一)記載の各金員を同記載の各時期に支払を受けていたことは当事者間に争いがなく、以上の事実に(証拠略)の全趣旨を総合すれば、原告の同年三月一日以降の賃金請求権の内容は前記各金員を下回らない額の各金員を前記各時期に支払を受くべきことを内容とするものと認めるのが相当である。
五 結論
よって、原告の本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 西岡清一郎 裁判官 笠井勝彦)